【AIナレッジベース構築】〈導入編〉(2)論理思考とZettelkasten(ツェッテルカステン)

ポイント

  • Zettelkasten (ツェッテルカステン)は索引カード型の情報管理手法のひとつ
  • 情報管理は知識情報相互の「関連付け」が重要
  • ナレッジベースは「関連付けの状態」を保管・共有・反復することで創造を促す

1. Zettelkasten(ツェッテルカステン)

前回の記事では、ナレッジベースシステムは思考改変ツールであることをお話しました。
これはシステムを使うこと自体が思考方法を矯正することになっていて、使うほどにそこに仕掛けられた合理的で効率的な思考パターンを刷り込まれるということでしたね。
そしてその思考改変ツールによる恩恵は、使う者が複雑で難しい話をスムーズに理解し迅速に決断できるような、ポジティプな状況を作り出すといったことにも触れました。

今回はその恩恵を作り出すための「合理的で効率的な思考パターン」について考えるための前提のお話になります。
ただ単にデータを保管して検索ワードで取り出すだけのデータベースではなく、ナレッジベースシステムのあるべき姿をぼんやりとでもイメージできるようになれば大成功です。

Zettelksten(ツェッテルカステン)という言葉をご存知でしょうか?
これは、古くからある索引カード型の情報管理手法の一つで、ドイツ語でZettelkastenは、日本語で小さな紙の伝票またはカードを指します。
この手法では下図のように、1枚のカードに書き込んだ情報を、キーワードやタグといった管理情報(メタデータ)を追加して、他のカードの情報と相互に関連付けます。

Explanation of the Zettelkasten knowledge management system ©︎David B. Clear (Licensed under CC BY 4.0)


この手法のもととなる索引カード型の情報管理方法は、近代以前から存在していたようですが、こうしたナレッジマネジメントの手法は、今回構築するナレッジベースシステムの基本的な考え方の原点でもあるので、もう少し簡単に紹介しておきます。

この管理方法では、大量に膨れ上がったカードストックであっても索引によって必要な情報に素早くアクセスし、かつ関連するカードに関する情報も記入されているので、複数個のカード情報を複眼的に確認できるというメリットがあります。
情報が単独で孤立したままよりも、有機的に結合した状態で取り出せた方が思考効率が良いという関連付けの効果を狙ったものですね。

その管理手法を使って多くの研究者や執筆家が成果を残しました。

ニクラス・ルーマン

中でもドイツの社会学者で哲学者のニコラス・ルーマン(Niklas Luhmann)は生涯にわたり研究で50冊以上の本を出版し、550本以上の論文を発表するなど、精力的な活動を支えた優れたメモ管理術を残しました。

Niklas Lufman ©︎Universitätsarchiv St.Gallen (Licensed under CC BY 4.0)

コンピュータによるデータ管理が社会に浸透する現在、そのデータ管理の手法はアナログの紙ベースからデジタル化された情報データの管理へと移行が進んでいます。
今あるインターネットの仕組みもHTMLファイルをカードとみなせば、相互にハイパーリンクで関連付けされた索引カード型のデータベースであると言えなくもないですね。
両者は類似性も高く、索引カード型の管理手法が現在のインターネットの成り立ちにも少なからず影響を与えているようです。

2. Zettelkasten の管理手法

今ここでZettelkastenについて詳しくは触れません(また別の機会にご紹介できたらと思います)。
そうはいってもナレッジベース構築において避けては通れないところではあるので、管理手法の簡単な概要だけご紹介しますね。
Zettelkastenの一般的な手順、管理手法のルールは以下のようになります。

索引カード型の情報管理手順

  • メモの作成:新しいアイデアや情報に関するメモを意味まとまりごとに最小単位で作成します。各メモには一意のIDを記入します。
  • キーワードやタグの追加:追加するメモにはキーワードやタグなどのメタ情報を追加し、関連性を持たせる準備をします。
  • メモの結美付け:追加するメモ同士や既存のメモとの関連付けをIDで指定し、簡潔に関連付ける根拠や理由を記入します。
  • 索引の作成:メモの一覧を作成し索引を形成します。索引のとおりに保管することで、特定のトピックやアイデアに迅速にアクセスできます。
  • 反復的プロセス:定期的にメモを見直し、新しい関連性を見つけたり、情報を追加・更新することで知識・見地・認識のアップデートを促進します。

この一連の作業の中で注目すべきことは、情報を「最小単位」に細分化してカード化し、他の関連するカードと「相互接続」するということです。
接続された数が多ければ多いほどに、その情報の重要性・有用性が高いことを意味し、大地に根を張る樹木のようにより安定した存在になっていきます。
また、この作業では記録対象について自ずと具体化(=カード化)と抽象化(=相互接続)が行われることになります。
そんなものごとを具体化したり抽象化するなんていう行為は、論理的思考そのものですね。
こういった有機的なアプローチが「⑤反復的プロセス」として繰り返されることにより、深い理解や新たな創造的洞察を生み出すことに貢献します。

3. 関連付けと反復の効果

Zettelkastenはメモ管理を作業として実行される行為の中に、自然と論理的思考をするように織り込まれているのですから、これもやはり思考改変ツールと言えます。
この索引カード型情報管理の手法の中でも、Zettelkastenが提唱する「相互接続」や「関連付け」こそが、情報を有効に活用するための最重要事項(エッセンス)であり、「人間が記憶したり理解したりする行為」に着目するとそれがすべてだと言っても言い過ぎではないでしょう。

そうした作業を通して無意識のうちに鍛えられる論理思考プロセス。
その行為を可能な限り容易に、繰り返し反復できる環境をナレッジベースシステムを通して実現する。
繰り返しが記憶を固定化し、新たな関連性を探るポジションを盤石にしてしまうそのプロセスを体験したら、もうどうしたってポジティブな状況にしかならない。
いつも「発見する」「創造する」というものが身近にあるわけですから。

ここまででZettelkastenの管理手法のポイントとメリットを理解しましたが、では実際に、このエッセンスをナレッジベースに活かそうとするとき「関連性」をどのように実装すればいいいのでしょうか?

次回は関連性を持たせる具体的な仕組みについて検証していきます。

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